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とはいえ、このような事が他人に知られる訳にはいかなかった。私の父は私が生まれてすぐに伯母とは別の女性と婚姻し、伯母は父と私から離れた。
私は父が亡くなった際、遺品の整理をしている中でこの事実を知った。遺品の中に1冊の聖書があった。その中に挟まれた1枚の手紙に、私の出生に関する事が手短に書かれていた。その聖書は伯母のものであり、手紙は父が書いたものであった。
手紙には、父が伯母と交わり私が生まれた事、私を育てた母はその事を知っていてもなお、父を愛し私を愛していた事、伯母は私が5歳の時、25歳で自ら命を絶った事、が簡潔に書いてあった。そして、この聖書だけが父が持ち得た唯一の伯母の形見である事が書かれていた。厳格であった父が書いたその1角1角をしっかりと紙の上に留めた文面からは、父が嘘を書いているとは考えにくかった。
伯母はこの湖で命を絶った。父の手紙には、一部で良いので自分の遺灰をこの湖に撒いて欲しい、と書かれていた。私は父の葬儀から1ヶ月程時間を空けてからこの湖に遺灰を撒いた。この事は誰にも知られる訳にはいかなかったので、慎重に行動した。
そして、定年退職した私は、この湖のすぐ近くにある別荘を、購入した。それは初めから死を迎える事を目的としていた。
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