あの日

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 ヨッピーは、よく姉の部屋に遊びに来ていたし、うちは両親が共働きで帰宅が遅く、娘の部屋に男が出入りすることを咎める存在もいなかった。いるとすれば僕か、うちで飼っているシーズー犬くらいなものだが、僕も犬も他人のことにはさほど興味がなくて、姉がヨッピーと部屋で仲睦まじくしている間、僕はひざの上に犬を熟睡させつつ、本を読んでいた。  いつだったか具体的な時期は忘れてしまったけれど、やがてヨッピーが姉の部屋に遊びに来るとき、もう一人、女子が毎回一緒についてくるようになった。彼女も姉のクラスメイトで、名を葉山麻希(はやまあさき)という、どちらかというとボーイッシュな見た目の姉と違って、女の子っぽく可愛らしい人だった。こちらも姉が、親友の麻希、と紹介してきたとき、僕が「ご迷惑をおかけしております」と言ったせいで、姉が僕にチョークスリーパーをかけてくる様子を、にこにこしながら見つめていた。  姉は毎日のように、ヨッピーと麻希さんを部屋に招き入れ、うちの親が仕事から帰ってくるくらいまでの間、部屋で遊んでいるようだった。ときたま「みんなで出かけてくるから」と言い残し、親が帰ってくる間際にこっそり一人で帰宅してきた。どこに行ってたのさ、と訊くと「べつにー」と言い残し、また部屋の中に消えていった。僕は釈然としなかったけれど、犬が僕の部屋のど真ん中でトイレを始めたことで、その疑念を吹っ飛ばされたのであった。  それからしばらく経ったある時、姉の部屋にはヨッピーだけが来たり、麻希さんだけが来たりと、どちらもが揃って遊びに来ることがなくなったことに気づいた。その理由が気にはなったが、言わない方がいいと思い、黙っていた。それから更に時が経っても、二人が一緒に家に来ることはなかったが、それでも僕は姉に何かを訊いたりすることはしなかった。
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