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寂しそうに彼女は言う。
「何を言ってるの?忘れるわけ無いじゃん」
それが難しいと思いながらも、僕はそう返すしかなかった。
「それでも、そう思っていても。絶対って言葉は無いからさ」
だけれど、僕が分かっているのと同じくらいに彼女も分かっていた。そもそも僕らが別れることを決めたのは、遠距離になって気持ちが薄れていくのが恐ろしかったのであって、薄れていくのと忘れていくことに大きな違いは無いのだろうと思う。
「まぁ、そうかもしれないけど……」
そんなことを考えたからか少し、自分の返答が弱々しくなるのが分かった。
「だからさ、さっきの写真くらいは残して貰ってもいいかなって」
彼女がほんの少し下を向いた。そうして、僕はもう一度軽口を叩くことにする。
「そう。それなら安心だ。絶対」
わざとだった。
「絶対って言葉が無いって言ったのにその言葉を使わないでよ……」
恨めしそうに彼女がこちらを向いた。
「だって、写真があるなら。記録があるなら思い出せるよ」
だから、自分でも願うように彼女にそう言葉をかけた。
引っ越しの準備をしていて一枚の写真が発掘された。季節は梅の花では無く、桜の花の季節。
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