5.

4/4
483人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
翌朝、父は仕事に出かけ、母はまだ熱がある双子の世話をするために姉のところに出かけて行った。 昂平と永瀬も、永瀬の仕事の都合で今日にはここを発つ予定だ。 出発の支度を整え、実家を出る。 昂平は、振り返った。 次に帰省するのは、また年末かもしれない。 そのとき、自分の隣にはまだこの綺麗なひとが立っているだろうか? 兄はまた、あの破壊力抜群の恋人を伴って戻ってくるのだろうか。 先のことは、まだ何もわからない。 それでも。 「あんな素敵なご両親が、君をこんなふうに育てたんだね」 永瀬が愛しそうに彼を見るから。 「俺も、あんたの両親に挨拶に行ったほうがいい?」 そのぽやんとした笑顔に向かってそう言ったら。 「え?」 びっくりしたように、目を見開く。 「フツツカなヨメですけど…つか、ムコ?」 「ええ?!」 一生、側にいたいんですけど、許してくれますか、って、言いに行ってもいいかよ? 早口でそう告げたら、永瀬の頬が真っ赤に染まった。 「昂平君、それ、もしかして……」 間接的に、僕にプロポーズしてるの? 「そうだけど?」 あんただって、俺に直接じゃなくて、父さんにしてただろ? 睨むようにそう言う昂平の頬も、赤く染まっている。 もしも、叶うなら。 実家の真ん前で、恋人と抱き合ってキスするなんて有り得ないことなのに。 そんなこともできちゃうぐらい、このひとのことを好きなんだろうな、と昂平は瞳を閉じた。 どうか、年末も、その翌年も、更にその先も。 このひとと共に、この家に帰ってきたいと思う。 そしてまた、高校生のように家族の目を盗んで、思い出の部屋で互いの体温を感じ合ってみたら、すごくすごく幸せなのではないだろうか。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!