3.

2/4
前へ
/20ページ
次へ
気がついたら、永瀬が目の前にいた。 「君の気持ちを、待っているつもりだったのに…」 そんな顔を見たら、どうしても嫉妬が抑えられなくなる。 永瀬はどこか困っているようにも見えた。 ぐいっと抱き寄せられる。 部屋の中に連れ込まれ、兄のベッドに身体を押しつけられた。 「兄ちゃんのことはもう何ともない、けど…」 この部屋にも、この家にも、思い出が多過ぎて。 昂平は、永瀬の瞳にいつもは決して見ることのない激しい熱を垣間見ながら、戸惑うように言葉を紡いだ。 「その思い出に、僕のことも入れてくれる?」 永瀬はどこか熱に浮かされたように、そう囁く。 「え?」 聞き返した唇を、柔らかく塞がれた。 始めはそっと触れるだけの。 それから。 舌が唇の隙間を縫って割り込んでくる。 「んっ……」 口の中を舐められ、吸われ、舌を絡められ、軽く噛まれ、混ざり合う唾液の立てる艶かしい水音。 それらの全てに、痺れるような快感が背中を這い上ってくる。 思わずすがりつくように、覆い被さる背中に手を回すと、チュッと高い音を立てて唇が離れた。 「はぁ……っ」 「教えて、昂平君」 濡れた唇を、指でなぞられる。 「このベッドに寝てたひとを、君はどんなふうに妄想してたの?」 永瀬は、背筋がゾクゾクするほど綺麗で妖艶な表情をしていた。 いつものぽやんとした顔はどこにもない。 唇を弄る指とは違うほうの手で、自分の眼鏡を外した。 レンズを挟まない、その美しい瞳が昂平を捕らえる。 「妄想で、こんなキスはした?」 昂平は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、ぼんやりとした頭でこくりと頷いてしまった。 永瀬は、もう一度、今度は軽く唇を啄んで、それから、昂平のシャツのボタンを外し始める。 「君が妄想してたいやらしいこと、僕に全部教えて」 こんなふうに、脱がせた? 耳朶を甘く噛みながら、囁く。 ねえ、こんなふうに……ここ、触ったの? シャツをはだけられて、胸の尖りを指先でそっと撫でられる。 昂平はビクッと身体を震わせた。 「昂平君、可愛い」 君が好きだよ。 永瀬の柔らかい声が、優しく撫でる指先とともに、昂平の身体を熱くする。 はあっ、と吐息が漏れた。 何してるんだろう、俺。 ここは大好きだった兄のベッドで。 今、大好きなひとに身体を触られている。 かつて自分が何度もした妄想が、現実になっている。 だけど。 触れる妄想が触れられる現実に擦り替わっている。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

492人が本棚に入れています
本棚に追加