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「昂平君、じゃあ、ここは……?」 散々に胸元を弄られた後、カチャリ、とベルトが外される。 そこに触れられるのは、初めてではない。 だから、永瀬の手がどれほどキモチイイのか、身体が覚えている。 期待だけで、熱を帯びるぐらいに。 「こんな妄想も、したの?」 柔らかい声に、責めるような響きはない。 ただ、粘るような籠った熱がそこにあるだけ。 足からズボンが抜き取られて、期待に震えるその熱をそっと手のひらで包み込まれる。 「昂平君…名前呼んで?」 君に触れているのは、誰? 君が今、こんなことを許しているのは誰? 「永瀬」 どこかせつなそうに彼を見つめていたその綺麗な瞳が、嬉しそうに揺らめいた。 「何回も、言ってる…けど」 昂平は、ゆるゆると撫でられる感触に意識を奪われないように、永瀬の背中に回した手に力を込めた。 「俺、あんたのことが好き、だから」 今は、兄ちゃんよりも、ずっと。 「あんたの、したいように、していいから」 報われない想いを抱いて、側にいるのに触れられない辛さはよく知ってる。 だけど、あんたは違う。 その想いは、報われてるんだから。 側にいるなら、触れていい。 我慢しなくていいのに。 「だって、俺も、永瀬が、欲しいんだ」 そう、囁いたら。 永瀬の動きが、ピタリと止まった。 「昂平君」 いとおしそうな、柔らかい甘い声。 だけど、どこか痛みを抱えているような。 「ここで、君を僕のものにしてもいいの?」 大切な思い出の詰まったお兄さんの部屋。 「あのさ、どこでもいんだよ、あんたとなら」 ここでも、俺の部屋でも、どっかのホテルでも、俺たちの家でも。 ここはもう、俺にとっては特別な場所じゃないから。 少しは感傷に引きずられることはあるかもしれないけど、それでも。 だけど、もしもここでそうなったら。 そしたら、すごく特別な場所になる。 あんたとの、初めての、場所になるから。 永瀬は、何故か、泣き出しそうに見えた。 その綺麗な瞳を少し潤ませて。 そして、ゆっくりと昂平にキスをした。 熱くて甘くて、想いがつまった蕩けるようなキスだった。
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