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「昂平君」
名前を呼ばれて、昂平は「ん…」と身を捩った。
何故か、身体が軋む。
「昂平君、大丈夫?」
永瀬の柔らかい声が、耳をくすぐる。
「もうちょっと……」
眠い。
そう言って、頭を永瀬の胸に押し当てようとしたが。
「でも、もうそろそろシャワー浴びておかないと、お母さん帰って来ちゃわないかな?」
……お母さん?
はっと目が覚めた。
恐る恐る視線を上げると、永瀬が優しく覗き込んでいる。
素肌に巻きついているそのしなやかな腕。
「身体、痛くない?お風呂場まで運んであげようか?」
腰のあたりを、温かい手のひらがゆっくり撫でた。
その手が、彼に与えた激しい快感を、一気に思い出す。
頬がかあっと熱くなった。
「だ、いじょうぶ、だから」
絞り出した声は、徹夜でカラオケした朝みたいにカサカサに掠れていた。
……名前、呼んで、もっと。
耳許に何度も何度も囁かれた、甘くせつなげなその懇願に、壊れたラジオみたいにそのひとの名前を繰り返し繰り返し、譫言のように呼び続けたからだ。
自分の声とは思えない甘ったるい悲鳴と、火傷しそうなぐらい熱い吐息の合間に。
起き上がろうとして、あられもないところが鈍く痛むことに、ますます頬が熱くなる。
永瀬がゆっくりと半身を起こして、身体を支えてくれた。
その、細身だけれども意外にしっかりと筋肉のついた上半身は、当たり前だけれども裸だ。
毛布で隠れているその下も、何も身につけてはいないはず。
「今、何時?」
「え?えっと…そろそろ5時かな」
窓の外は夕闇だ。
急がないと、本当に両親が帰って来てしまう。
照れたりしている場合じゃない。
「あんたも、一緒に、風呂入ろ」
1人ずつ入ってる時間はない。
そう思って、言ったのだが。
「えっ?!」
永瀬の顔が赤くなった。
「何考えてんだよ、時間がないし、あんたにお湯の出し方とか説明するついでだから!」
早く支度しろ!
起き上がると、そこは自分の部屋だった。
散々に乱れたシーツは、兄のベッドのじゃない。
特別な思い出の場所にしてくれるのなら、君の部屋でしたい。
永瀬がそう囁いていたのを思い出す。
身体の奥が、永瀬の肌の熱を思い出して、少しだけ甘く疼いた。
今は、余韻に浸ってる場合じゃないのに。
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