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なんとか両親が帰宅する前に、身支度を整えて汚したものを片付けて、何事もなかったかのようにすることができた。
親の留守に恋人を連れ込んで……なんて、高校生かっつーの。
思わず、自分で自分にそんなツッコミを入れたくなる。
水分を取って、飴を舐めて、なんとか声もちょっといつもよりハスキーかも?ぐらいに戻すことができて、ホッとする。
身体が少し軋むのぐらいは、稽古に熱が入り過ぎて筋肉が疲れてしまったときとそう変わらない、と思うことにした。
永瀬は、あの怖いぐらい壮絶な色気もどこへやら、いつもと全く同じほんわかムードしか醸し出していない。
別人なんじゃないかと思うぐらい雰囲気が違う。
「ただいまぁ、ごめんね、こうくん」
母の声が玄関に響いたのは、6時前だった。
ホントにギリギリセーフな感じだ。
「そこでお父さんに会ったの。今急いでお夕飯の支度するから、お父さんとお話してて」
両親は揃って帰ってきた。
永瀬と父親が食卓に座る。
昂平も、落ち着かなげに永瀬の隣に座った。
「昂平君の大学で比較文化学という学問を研究している永瀬雪晴と申します」
永瀬は、昼間母にしたのと同じように、名刺を差し出しながら父に挨拶する。
父親は名刺を受け取り、それから、真っ直ぐに永瀬を見た。
「昂平の父です。いつも、愚息がお世話になっているようで」
「お世話になっているのは私のほうです。昂平君には、学部も違うのに研究室の雑用などを手伝っていただいてます」
いつものぽやんとした永瀬ではないが、穏やかで柔らかい雰囲気はそのまま、大人の男の顔をしている。
「こんなことをいきなり申し上げると不快に思われるかもしれませんが、私は昂平君と一生一緒に生きていきたいと思っています」
その言葉に、昂平のほうが、父親よりびっくりした。
そこまで言ってくれるとは、思ってもみなかったのだ。
一生一緒に。
「同性同士で何を、とおっしゃられるかもしれませんが、私は真剣です」
でも、と彼は昂平を見た。
「とはいえ、昂平君は、まだ若い」
ですから。
「彼がこの先、私といることを望まないのであれば、そのときは」
きっぱり身を引く覚悟もしています。
永瀬の瞳は、今までに見たことのない強い意思の光を宿している。
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