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「俺は……」 昂平は、乾いた唇を舐めた。 「先のことまでは、まだわからないけど」 正直な、気持ちだった。 まだ、自分には、そんな先の未来までは見えない。 19年想い続けた兄への気持ちも、こんなに簡単に変わってしまうのだから。 「今は、このひとと一緒にいたい」 父は、ふむ、と頷いた。 そして、永瀬を真っ直ぐに見る。 「こんな煮え切らない息子でもいいとおっしゃるのですね」 「誠実で正直な、偽らない答えだと思います」 そういうところが、私はとても好きです。 「昂平がそうしたいと言うのなら、私に許可を得る必要はないんですよ」 父は、ゆっくりとそう言った。 「ですが、貴方の真剣なお気持ちを話しに来ていただけたのは、とても嬉しい」 親としては、とてもとても安心できますから。 そして、微笑んだ。 「昂平を、どうかよろしくお願いします」 深く頭を下げる。 そのとき、母が昂平を呼んだ。 料理ができたから運んで欲しい、と。 キッチンから、話が一段落するのを待っていたらしい。 昂平が席を立つと、彼の父は、ふと鋭い瞳をした。 「貴方は、あの子の兄をご存知ですか」 「はい。引越のお手伝いに来ていただきました」 永瀬は、そのひとの父が、何を言いたいのか察したようだった。 「昂平君がずっと心に秘めていた苦しい想いのことも、知っています」 穏やかに、彼は言葉を紡ぐ。 「そのことも含めて、彼の全てを受け止めたいと思っています」 父親は、ふっと肩の力を抜いた。 「私には、あの子たちのつらい気持ちを、どうしてやることもできなかったから」 兄の桔平の応えられない気持ちも、昂平の永遠に報われない想いも。 「貴方がそれを丸ごと受け止めてくれるというのなら、本当に感謝します」 ありがとうございます。 父は、もう一度深く頭を下げた。 テーブルに額がつくぐらい、深く。
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