492人が本棚に入れています
本棚に追加
新幹線に乗り込むと、永瀬は楽しそうに駅で買い込んだお弁当を取り出す。
「え?もう食べんのかよ?」
まだお昼には早すぎるし、新幹線は発車すらしていない。
「だって昂平君と旅行なんて楽しすぎるから」
返事になってない返事をおっとりと言って、手はいそいそとお弁当を開いていく。
「昂平君も、ほら、早く食べよ?」
自分の分だけでなく昂平のお弁当も開けてくれるから、まだお腹空いてない、と文句を言いつつ、昂平も箸を割った。
永瀬はなんて挨拶するのだろう?
帰省が決まってからずっと聞けないでいる疑問が、頭の中をぐるぐる回っている。
これでは、遊佐をなんて紹介するか、ずっと悩んでいた年末の兄と全く同じじゃないか。
「昂平君、ついてる」
永瀬の声に、はっと現実に引き戻されると。
その長い綺麗な指が口許を撫でた。
口についていたご飯粒を掬って、ぱくりと自分の口に入れる。
「ん、美味し」
そして、昂平君のお弁当も美味しそうだよね~なんて、呑気にほわわんと笑っている。
「僕のも食べてみる?」
首を傾げて、そんなこと言われたら。
なんか、まるで。
ちょっと卑猥な想像をしてしまった自分が、なんだかものすごく恥ずかしい。
「俺もうお腹いっぱいだから、これも食べていいから」
羞恥を悟られたくなくて、お弁当を永瀬のほうに押しやる。
永瀬と一緒に暮らし始めて、なんだかとても気持ちが落ち着かない。
一緒にいないとさみしくてさみしくてたまらないくせに、一緒にいるとそのひとの仕草の一つ一つにビクビクしてしまう。
身体を繋げることが怖いのか、それとも。
もしかして、期待…しているのだろうか。
ただ一緒にいるだけで、それだけで幸せだと思っていたのに。
最初のコメントを投稿しよう!