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永瀬は終始キョロキョロしている。 「ここが昂平君の育ったおうちかぁ」 昂平君の部屋、ちゃんとそのままあるんだね。 「コート脱げよ、掛けとくから貸して」 昂平はなんとなく照れ臭くて、必要以上にぶっきらぼうにそう言った。 「昂平君のアルバム見たいなぁ」 「アルバム?」 「僕が知る前の昂平君、見たい」 コートを脱ぎながら、永瀬はにっこり笑う。 「本棚の一番下にあるから見ていいよ…そんなの見ても、つまんないと思うけど」 受け取ったコートをハンガーに掛けてクローゼットにしまいながら、昂平は肩を竦めてそう答えた。 「わあ、この赤ちゃんが昂平君かなぁ?」 ベッドの上に腰かけてアルバムをめくる永瀬は、一枚一枚歓声を上げながら眺めている。 昂平は、永瀬の隣に腰かけた。 「違うよ、それは兄貴。俺はこっち」 「へえ…」 アルバムを見ているうちに、なんだか泣きたくなってきた。 どの写真にも、兄と一緒に写っている。 2歳ぐらいからは、常に兄を追いかけている自分の姿。 ひたすらに、兄に並ぼうとしている。 兄が小学校入学のときに撮った写真は、自分が一緒に行けないと地面に座り込んでギャン泣きしている姿だ。 中学入学のときは、もう少し大人な対応だけれども、兄のめでたい日に明らかに不機嫌な自分。 大好きで大好きで堪らなかった兄との時間が、アルバムの中には詰まっている。 だけど、それを、永瀬には見られたくなかった。 そう、見られたくないと思ったのだ。 永瀬はそんな昂平の気持ちに全然気づいていないように見えた。 ただ、彼のことだから、気づいていてもそんな素振りを見せないだけなのかもしれないけれど。 ほんわり微笑みながら、この昂平君可愛い、とか、この昂平君も可愛い、とか、ページをめくるたびに楽しげにはしゃいでいる。 昂平がなんとなくいたたまれない気持ちになったそのとき、部屋の扉がコンコンとノックされる。 「お茶入ったわよ」 母は部屋には入って来ず、昂平にお盆を手渡した。 「こうくん、ごめんね、お姉ちゃんのところの双子ちゃんが熱出したんですって。お母さんちょっと様子見に行ってきてもいい?」 「もちろん」 「今日はお父さんも早く帰るって言ってたから、お父さんが帰る前には戻るようにするから」 気にしなくていいよ、早く行ってあげて、と昂平は言った。 母親は慌ただしく階下に下りていき、バタバタと出かけて行った。
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