第1章

3/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 私はと言えば、あれからすぐに大人の体を手に入れたんだ。そうさ。アリジゴクからウスバカゲロウへと変態したわけだ。するとどうだ。空を飛べるようになったんだ。  だが、悲しい現実が待ち構えていた。私が自由に空を飛び回れる時間はほんのわずかしか残されていなかった。ウスバカゲロウの寿命は、たった一日しかないのだから。  それでも私は残り少ない生を全うした。やがて動けなくなり、それを君の兵隊たちが見つけ、ここに運ばれてきたと言うわけだ。差し詰め君への貢ぎ物ってところだろうか。  君は、私のことを覚えているだろうか。いや。それは無理なことかもしれない。私の姿かたちはあの頃とはあまりにも違いすぎるのだから。想いを伝えたいが、もうそんな力もない。  不意に君は私の体を自分の傍に引き寄せた。そして私の目をじっと見つめた。しばらくそうしていたかと思うと、君は私の顔にむしゃぶりついてきた。バリバリと顔の砕ける音が聞こえる。  女王となった君は、この巣を守らなければならない。そのためにはたくさんの卵を産む必要がある。そして、栄養を摂る必要も。だから遠慮せず、私を、食うがいい……。  気が付けば私は再び、あの日見上げた空を飛んでいた。翅の生えた蟻とともに。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!