天然記念物を映す写真家~菜月の物語~

2/9
前へ
/9ページ
次へ
「お父さん、ここまで来たよ」  菜月にとって穂高(ほだか)の冬は特別だった。  今は亡き父が最後に登った山。登山家であり、写真家でもあった父。  子供の頃から父に連れられよく登山をしたから、足腰には自信があった。だが、菜月は夏の登山は何度もしているが冬の登山は実は初めてだった。  兄弟の中で父の後を継いで写真家になったのは菜月だけだった、菜月が冬山登山を急いだのは、父が初めて冬山の登山をした年齢を超えてしまうからだ。  それまでにはどうしても登りたい、子は親を越えなければならないから。 『俺を超える人間になれ、それが一番の親孝行だよ』  常々そう言ってた父の気持ちを裏切ってはいけない。  そんな気持ちが菜月を突き動かしていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加