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「お父さん、ここまで来たよ」
菜月にとって穂高の冬は特別だった。
今は亡き父が最後に登った山。登山家であり、写真家でもあった父。
子供の頃から父に連れられよく登山をしたから、足腰には自信があった。だが、菜月は夏の登山は何度もしているが冬の登山は実は初めてだった。
兄弟の中で父の後を継いで写真家になったのは菜月だけだった、菜月が冬山登山を急いだのは、父が初めて冬山の登山をした年齢を超えてしまうからだ。
それまでにはどうしても登りたい、子は親を越えなければならないから。
『俺を超える人間になれ、それが一番の親孝行だよ』
常々そう言ってた父の気持ちを裏切ってはいけない。
そんな気持ちが菜月を突き動かしていた。
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