雨が降る

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「男の裸がのってるエロ本なんだよ。」 あっけらかんと、庸平はそれを口にだした。 そして次々と言葉を並べ立てる。 「普通、男って女の子に興奮するもんだろ?でもあの本の持ち主は女の子の裸を見たって全然勃たないんだよ。それで試しにゲイ向け雑誌読んだらさ。……初めて射精したんだよ。頭が狂ってるって思ったね。友達の猥談にも混ざれねえし、体育の授業とかで裸みるわけじゃん。それに興奮するんだぜ。俺だったら気色悪くて友達やりたくねえよ。」 庸平は吐き捨てるように捨て鉢な調子で言葉を放つ。 俺に話しかけているはずなのに、庸平はまるで黒く淀んだ空に言葉を投げかけているようだった。 「んであの本の持ち主はゲイ雑誌が家で親に見つかっちゃったわけでさ。家族会議が開かれるわけよ。お前頭がおかしいんじゃないかって。」 俺はでかかった言葉を飲み込んだ。 まだ、庸平の話を聞かなきゃならない。 「エロ本見つかっただけであれなのにそれが男の裸だからなあ。親に病院連れていかれされそうになったりしてさ。んでどうしようもなくなってきっと捨てたんだよ。こんなやつで興奮する俺はやっぱり狂ってるって。」 庸平はそこまで捲し立てると、そこでやっと俺のほうに振り向いた。 その顔は地獄の底を這いまわるような、罪の告白をした罪人の顔だった。 「……ごめん。」 それは一体なんに対しての謝罪だったのか。 そして俺は今、自分がどんな姿をしているのかはっきりと自覚をした。 「なんで謝るんだよ。」 俺は手に持っていたシャツを強く握りしめる。 今すぐにこのシャツを着てしまいたい羞恥心にかられるが、今それをしてしまったら 庸平が傷つく気がした。 「……別に悪いことじゃないだろ。」 「相手を性的に見てるってだけで嫌なもんだろ。友達を怖がらせてどうすんだよ。」 だから、と庸平は言葉をつづけた。 「服、着ろよ。」 その言葉に俺の顔がカアっと赤くなる。 庸平は気付いていた。 俺が、庸平と友達なのに庸平にびびっていることに。 「お前は悪くない。……だからさ、もう俺に付きまとうのはやめてくれ。」 庸平は俺から視線を逸らすと最後通牒を俺に通告する。 庸平の声が心なしか、震えていたような気がした。 俺は乱暴にシャツの袖に腕を通し、ボタンを閉める。 湿っていて気持ち悪いシャツを着て、俺は最低な気分になっていた。 ――――――自分が情けなかった。
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