疫病神、降臨

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社員食堂のいつもの窓際の席。ランチを終え、大きなフィックス窓の向こうの見慣れた景色を眺めながらため息を付く。 「今日は厄日だ……」 そんな私の独り言に反応したのは、同僚で親友の高橋(たかはし)(ゆい)。 「んっ? さっきのアレ、まだ気にしてんの?」 対面に座っている唯は、読んでいた"甘い"と評判の恋愛小説の文庫本をパタンと閉じ、頬杖を付いてフフッと笑う。 「そうヘコみなさんな。女子社員の間で一番人気の並木主任との距離が縮まったんだからいいじゃない。私としては羨ましい限りだよ」 「はぁ? 冗談はやめてよ」 唯が言う並木主任とは、半年前に本社から異動してきた成分研究部の並木(なみき)(しゅう)主任のこと。 私が勤めているバイオコーポレーションは、健康食品をメインに、化粧品や美容製品を研究開発している会社だ。東京本社の他に、日本各地に研究所と生産工場を持ち、日々お客様のニーズに応える為、商品作りに勤しんでいる。 私はその地方研究所の検査事務部で研究員の研究データーの制作補助や、本社への提出資料などの作成をしている。まぁ早く言えば、雑用助手。研究員が自分の仕事に集中できるようサポートするのが仕事だ。 通常、ひとつの研究には相当な時間を要する。結果が出るまで数年掛かることも珍しくない。なので、管理職以外の研究員の異動は殆どない。それに異動は四月と決まっている。 なのに並木主任は中途半端な六月に異動してきたから、当時は、何かとんでもないことをやらかして東京本社から遠く離れたこの研究所に飛ばされてきたんじゃないかと噂されていた。
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