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祖父ちゃんには、とても大切にしている宝物があった。
小さなガラスのビンに入れられた、キラキラと光る砂。
白色の中に、茶色や黄色、黒色がモザイクのように散りばめられた、綺麗な砂。
祖父ちゃんはそれを、“星屑の砂”と呼んでいた。
今はもう無くなってしまった、僕らの故郷である惑星の砂だと言う。
僕は、故郷の星のことをよく知らない。
故郷と言っても、僕が生まれた時には、もう存在しなかったから。
人は、自分たちのことばかりを大事にして、星のことを大事にしなかったんだって。
だから、星は少しずつ弱って行って、そして死んでしまったんだって。
祖父ちゃんは、よく話してくれた。
どんな景色が広がっていて、どんなものがあって、どんなことをして暮らしていたのか。
寂しそうに、嬉しそうに、色々な表情で話してくれた。
星屑の砂は、祖父ちゃんが生まれた家の近くにあった海岸でとったものなんだって。
深く遠く、透き通るように澄んだ、青い空と海。
そこに広がる白い砂浜は、まるで生き物が鳴くみたいに、歩けばキュッキュッと不思議な音を立てたそうだ。
それは、星が死んでしまうよりもずっと昔の話。
祖父ちゃんが、まだ子供だった頃の話。
祖父ちゃんが大人になった頃には、美しい色も音もほとんど失われてしまっていたらしいけど、わずかでも確かに、その景色の一部をビンの中へ残したんだ。
大切な思い出と一緒に。
少しだけ触らせてもらった星屑の砂は、サラサラとしていて、何となく温かくて、何となく柔らかい感じがした。
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