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そんなある日、事件は起こった。
いつものように学校へ行って、その帰りのことだった。
見慣れたはずの通学路。
その先に広がっていた、見慣れない光景。
人だかりと煙、サイレン、それと、大きく揺れる赤。
強く押し寄せる、光と臭いと音。
僕らの家が、荒波のような炎にのみ込まれていた。
その時の、それ以外のことは、実はよく覚えていない。
父さんと母さんが迎えに来るまで、僕の頭の中は真っ白で、まるで時間が止まってしまったみたいになっていたから。
祖父ちゃんが怪我をして病院にいると聞かされた時、僕はやっと我に返った。
幸いなことに、祖父ちゃんの怪我は、両手足の軽い火傷と、少し煙を吸い込んだというだけで、大したものではなかった。
僕はそれを聞いてホッとしたけど、父さんは何故か、とても怒った顔をしていた。
その訳は、後になって分かった。
火事になった時、最初、家には誰もいなかったんだ。
父さんと母さんは仕事に行っていて、祖父ちゃんも散歩に出かけていた。
だから、本来なら、誰も怪我人なんて出ないはずだったんだ。
だけど、散歩から帰ってきた祖父ちゃんは、燃える我が家を前にして、立ち止まることができなかった。
周囲の人の制止も振り切って、炎の中へ自ら飛び込んで行ったんだって。
そして、あの星屑の砂だけを取って、フラフラになりながら戻ってきたそうだ。
一歩違っていたら、死んでいたかも知れない。
だから、そんな祖父ちゃんの無茶に、父さんは怒っていた。
過去にすがって、未来を失うところだったって。
いい加減、もう面倒を見切れないって。
祖父ちゃんは謝っていたけど、その間も、星屑の砂をずっと大事そうに握り締めていた。
その後、僕らは新しい家に引っ越すことになって、それをきっかけに、祖父ちゃんとは別々に暮らすことになった。
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