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それから少しして、祖父ちゃんが死んだ。
独りで、静かに、眠るように。
前触れも何もない、突然の報せだった。
僕は、初めて“死”というものを実感した。
「心にぽっかりと穴が開いた」なんて、よく言うけど、本当にその通りだった。
その穴の中を、冷たい風が抜けて行くように、ギュッとなって、息ができなくなって。
気を抜いたら、自分という存在が、内側からバラバラに崩れてしまいそうになる。
誰かが死ぬっていうのは、大事なものを失うっていうのは、そういうことなんだ。
僕は、とても悲しくて、そして怖くなった。
だけど、こんなにも強くはっきりとしている感情なのに、どうしたらいいのかは分からなかった。
父さんのことを考えると、なおさら何も言えない。
お葬式の時、時々覗いた父さんの顔は、機械みたいにずっと無表情だった。
だから僕も、できるだけ気持ちを見せないようにして、ずっと顔を伏せていた。
仲が悪かったから、父さんは祖父ちゃんがいなくなっても悲しくないのかな。
そう思ったけど、ふいに父さんは、祖父ちゃんの遺骨を抱いたまま、ポツリと言った。
「……遺骨の“成分”なんて、どれも変わらないはずなのに、これは紛れもなく、父さんなんだよなぁ……」
父さんの目には、いつの間にか涙が溜まっていて、すぐにそれは大粒の滴になった。
その時の言葉の意味は、まだ僕にはよく分からない。
だけど、父さんが本当は、祖父ちゃんのことを好きだったんだって、それだけは分かった。
いつも強くて大きな父さんが、その時はとても小さく見えて、僕は何故か、星屑の砂を寂しそうに眺める祖父ちゃんの姿を思い出した。
そうしたら、抑えていた気持ちがあふれ出して、僕も涙が止まらなくなった。
父さんは、優しく抱きしめてくれた。
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