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「ひとつ聞いてよろしいですか」
お釣りを渡しながら、わたしは岡野さんに訊いた。
「なんでしょうか」
岡野さんはきょとんとしつつも、どうぞというふうに小首を傾げた。
「わたしの話が真っ赤な嘘だとは思わないのですか」
そう言うと、岡野さんは目をしばたたかせた。くす、と軽い笑いを漏らして、
「三冊とも、裏表紙に同じシールが貼ってありました」
今度はわたしが目をぱちぱちする番だった。
「ワニのシール……あれ、お店の備品だっていう目印ですよね」
岡野さんはにっこりと目を細める。名探偵の推理はいかがでしょう? そんなふうに。
「名前を書くのは憚られたので。かといって蔵書印も仰々しいでしょう」
「可愛くていいと思いました」
岡野さんは財布をバッグにしまって、レシートをそのままレジ傍の不要レシート入れに放り込んだ。
「ミックスジュース、おいしかったです」
「ありがとうございます。でも実は、わたし、看板メニューとは思っていないんですけどね」
「そうなんです?」
「はい。ぜひ今度はほんとうの看板メニューを召し上がってください」
岡野さんは一瞬意表を突かれた顔になって、すぐに大きくうなずいた。
「ええ。また、必ず」
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