カフェ・ヴァスティ

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「すみません」 「え?」 「あの、閉店時間ぎりぎりになっちゃって」 「いえいえ、お気になさらず」  ストローをグラスの手前に置き、 「ごゆっくりどうぞ」  心の内がどうであれ、お決まりの台詞を口にして、わたしは女に背を向けた。 「あの」  弾けるような声で呼び止められ、振り返る。見開いた女の瞳がわたしを凝視していた。華奢な身体から感じる妙な迫力に、わたしはちょっとだけ仰け反った。 「はい……何か?」 「遺品の本に、ここのレシートが挟まっていたんです」  遺品、という単語に一瞬反応が遅れた。 「――はあ」  あまり興味津々に聞こえてはいけないと思うあまり、ずいぶん気の無い返事になってしまった。女の顔が焦りと落胆とに染まった。  ここ最近、常連客で亡くなったという話は聞いたことがない。一、二度程度の来店では顔を覚えるべくもなく、だからこそ女の発した『遺品』という単語には興味をひかれた。 「つまりですね、その……」  女は言葉を探すよう、首をかくかくとさせた。もじもじと指を組み合わせる。ひたすら沈黙が流れる。わたしは会話を切り上げて引っこむこともできず、かといって自分から進めるのも無礼かと思ったが、結局、 「差支えなければ教えてください。どなたの遺品なのでしょうか」  そう、繋いだ。 「わたしの――友人です」
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