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そう言うと、女はトートバッグからクリアファイルを取りだした。中に挟まっていたレシートを差し出す。確かに、この店のレシートだ。日付は去年の十二月四日。内容はミックスジュースが一杯。なるほど、本に挟まっていたという言葉通り、真ん中でぴしっとした折り目がついている。
「わたし、岡野海空といいます」
名前の中に陸海空ぜんぶ揃ってるんですよ、とほほえむ。きっとこれが彼女の自己紹介の定番なのだろう。
「ミックスジュースが有名なんですよね、このお店。口コミサイトで見ました」
「そうですね。おかげさまで」
何がおかげさまなのかよくわからないが、わたしはそう言った。
「幼なじみが先日亡くなって、その遺品の本にここのレシートが挟まっていました」
顔に陰りが見えた。その暗さがなかなか消えないのは、友人が夭逝したことに加えて、それ以外の理由もあるような気がした。
「彼、果物アレルギーがあったんです」
ここで岡野さんの友人の性別が判明した。雰囲気的に友人というか恋人だったのかもしれない、というのは邪推だろうか。
「それなのにレシートにミックスジュースってあるから、変だなって」
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