キンモクセイと美少年

4/6
前へ
/27ページ
次へ
さて、体育の授業中、跳び箱の順番を待ちながらクロちゃんから聴いた「風と木の詩」は、だいぶ後になってから実際に読んだが、登場人物も構成も複雑で、時間の流れも交錯しており、バルザックとか、ゾラとか、19世紀の長編小説のようだった。 クロちゃんは、ばらばらのエピソードだけを、読んだままの順番で話してくれるので、私は、いま一つ展開の必然性が理解できなかった。 が、とにかく、フランスのアルルという所に、貴族やブルジョワの子弟ばかりが集まる全寮制の男子校があって、そこにジルベールという名前の、この世のものとも思われない美少年がいる。いいトコの坊ちゃんなのに親にかえりみられず、頭がいいのに落第していて、いつも精神不安定で男に身を任せてないと常軌を逸する、という衝撃的な内容だった。 さて、ジルベールの話を聞いて以来、私は嫌いな体育の授業が待ち遠しいものとなった。クロちゃんは千一夜物語のシェラザードみたいに、当時まだ連載中の漫画の筋を何日にもわたって話してくれる。漫画本そのものは、クラス中が回し読みしていて私の番はなかなか来そうにない。だから、唯一の頼みは、少女コミックを毎月買ってるクロちゃんのつたない物語だけなのだ。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加