カトレア

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 ちょうどその映画を観た頃、私は自分の体が、精神とのバランスを無視して、みるみる変化していくことに耐えられない違和感をおぼえていた。中学にあがったばかりの頃は、すでに160センチあった身長にたいして40キロあるかないかの少年のような体型だったのが、中学3年生になるころには背はさらに伸び、すんなり華奢だった骨格もしっかりとして、体重も増え、二の腕やふくらはぎが、娘らしく、ムチムチすべすべしてきた。中性的な軽やかな体が自慢だったのに、とうとう自分も、大人になる一歩手前の、女の子特有の野暮ったい、愚鈍な、それでいて男の目を引くような容貌になっていくのが止められずに、日に日に不安定になっていった。そんな時にこの映画「スワンの恋」を観た。    パリの社交界で生きる高級娼婦オデットは、私が憎んでいた成熟した女の肉体を武器に生きる女だった。若いブルジョワ、スワン氏はオデットと秘密の遊びをしている。豪華なしつらえの馬車の中で、屋敷まで待ち切れない欲望でオデットの髪に飾られたカトレアの花に手をのばす。手にとったそのカトレアを大きく胸元の開いたドレスから柔らかそうに盛り上がった真っ白な胸の谷間にそっとはさみこむ。そのエロティックな暗示に満ちた戯れを、主人公は「カトレア遊び」と呼んでいる。
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