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あなたが撮る世界に僕は……
いつもの場所に、いつもの姿がある。
その事に少しほっとしながら、少し嫉妬しながら、僕はゆっくりと近づいた。
いつもと違うことがあるとすれば、今日は雪が降っている。
少しだけ違う今日ならば。
僕は勇気を出して、彼女に声をかけた。
「綺麗に獲れましたか?」
「まあまあね」
慌てた様子で、少し恥ずかしそうに答える彼女。
彼女が構えているカメラの先には、グランドを駆ける男子の姿がいつもある。
あの人は、あなたの……。
そう訊ねてしまったら、何かが決定的に終わってしまうような気がして、僕はいつまでも訊ねられずにいた。
「君もよくここに居るよね。いつも何を撮っているの?」
「僕は……」
手元のカメラに視線を落とす。そのメモリーには、彼女の横顔や後ろ姿ばかりが映っていた。
でも、そんな事は到底言えるはずもなく、
「とても、綺麗なものです……」
と濁した僕に、彼女は
「今日は雪だもんね」
と白い息を吐きながら言った。
「寒いですよね」
白く凍った溜め息が、棚引きながら溶けていく。
「邪魔して、すみません。それじゃあ」
「うん」
彼女が撮る写真に、僕の姿が映る事は無いだろう。
一瞬だけでも、僕を見て欲しかった。
こっそりと撮った彼女の正面写真を削除しながら、雪で白く染まる道を一人歩いた。
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