0人が本棚に入れています
本棚に追加
「死ねば」
簡潔な一言に体を震わせる。冬の寒さと雪の冷たさというのもあるだろう。だが、彼女のカメラを覗きたかった。
彼女に出会うのはいつもの冬だ。
去年も今年も、この冬の森で出会う。生物の動きがわからない寒い雪の日。
初めてであったのは5歳のとき
子供ながらの雪景色にハイテンションで遊ぶということがあった。
親の実家に里帰り、よく分かっていなかったが、自分の家より古くて、大きな場所だということはわかっていた。
その子供は大はしゃぎで森に入り、大はしゃぎで迷子になっていた。
雪うさぎに雪だるま、わざと白い雪を潰して固めてツルツルにするという無駄な行為。
顔を上げれば美しい女の人がカメラを構えてそこにたっていたのだから驚いた。
真剣な表情で何かをカメラに写していた。
パシャリ
そこで写真を撮りにここに来ているのだと子供ながらに理解した。
「おねーさん、おねーさん、写真撮ってるの?」
こちらに今気づいた様子で
「迷子?」
とだけ告げた彼女は今でも思い出せる。
結局その日は何度尋ねても何を撮っているのか教えてくれなかった。
周りをうろちょろして雪が足に入り霜焼けになりながらも不思議な彼女に惹かれていた。
親が探しに来た頃には寒さで死にかけ、つまり凍死しかけの状態で見つかった。
全く馬鹿な話だ。
その年から同じ場所、同じ寒い雪の日、そして歳を取らず、同じ服、同じカメラを持った彼女を見かけるようになった。
おれはきっと彼女のことが好きになっていた。
そして異常に気づいてしまったのだ。
彼女はもしかして生きていないのではないかと。
気づいてしまったのだ。
おれは彼女のことを知りたかった。例えば好きな食べ物、例えば家族のこと、例えばどこの学校に通っているのか、例えばどの季節が好きなのか
例えば、そのカメラには何が写っているのか。
最初のコメントを投稿しよう!