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「君はなぜ冬の今ずっと写真を撮っているのか」 おれは独り言のようにボソボソと彼女に向かって言った。 彼女はカメラから視線を外し、こっちに目を向けた。 「冬は美しい。白が輝いている。生物の死がみえる。」 彼女もまた独り言のようにボソボソと返してきた。 また彼女はカメラに視線を戻した。 彼女とは1年に1度きり、 「ねえ、何を撮っているの」 その言葉はするりと喉元を滑り落ちた。 彼女はこちらを向き、 「お前にはわからんだろうよ。」 その年もまたおれは凍死しかけて見つかった。 彼女のことを知りたいのだ。 彼女のことをまともに調べ始めたのは中学3年の冬。 この周りの高校に行くことにしたからだ。 何故彼女はずっと冬の森に居るのか。なぜ?なぜ?なぜ? それが知りたい。 近所に彼女が住んでいたのかどうかを知るためには色々な人に聞かなければならないが、不審がられた。 俺初めて親の実家、つまり祖父と祖母に聞いた。 カメラを持った女学生を知らないか、と 彼らも驚いたことだろう。 急に引っ越すと騒ぎ立てた中三の孫が女を探しているというのだから。 「カメラを持った女学生か?お前が5歳の冬に行方意不明になった頃に一人しか知らないな。」 「お前が知っているわけないのだから気にしなくていいわよ。」 おれはきっとその子のことだと思った。 高校三年生の写真部だったらしい彼女 きっとおれがはじめてみた彼女こそ最後の姿なのだろう。 彼女はもう、この世にいないのだ。 彼女はもう、カメラを1度も撮っていなかったのだ。
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