人生という牢獄で最後に

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 グランドジョラス北壁はヨーロッパアルプスの、とても難しいといわれる登山ルート。ヨーロッパ三大北壁の中でも最難関、だそうだ。初の単独登頂は一九七九年のことで、それ以後も単独登頂を成功させた人は多くはない。  ということを私はグーグルで調べた。ウィキペディアにはちゃんと『荒木友直』という項目があった。画像なし。二十行くらいの記述だ。大半は専門的すぎて、例えばサッカー選手なら誰くらい凄い人なのかとか、門外漢の私の想像を助けてくれるようなことは書いていない。  私が理解したのは、山から山へ、岩から岩へ、命を落としかねない、しかもマイナーなスポーツに、人生の大半を費やしている人、ということ。  戻ってみたらケイスケの姿はなくて、アラキさんが独りでウーロン茶を飲んでいた。 「あれ?」 「トイレ行ってる」 「アラキさんて、国立大出てるんですよね」 「え、何で?」 「就職しようとか、思わなかったんですか」 「うーん、俺、シャカイセイカツフテキゴウシャだから」  苦笑いして、アラキさんは言った。  社会生活不適合者。  頭の中で、意味のわからなかったセリフに漢字がつく。 「そんなふうには見えないけど」 「そういって嫌なことから逃げてたのさ」 「カノジョとか、いないんですか?」     
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