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逢魔が刻。
ビルの向こうに沈もうとしている夕日の橙色と、それを飲み込むように追いかけていく群青色。二色のコントラストが、景色に不気味さの演出を加えていた。
人が住んでいるのかもわからない住居や、築何年経ったのかもわからないアパートばかりが軒を連ねる住宅街。
人生の理不尽に負けた人々の吹き溜まりのようなこの場所は、治安もよくないため家賃の相場がとても低く、弱者にはお似合いの場所だった。
そんな住宅街の一角にある賃貸アパートへの帰路を歩いている最中のことだった。
いつお化けや妖怪が出てきてもいい雰囲気の中で、ぼくの目の前に一つの人影が現れた。
不恰好に伸びた髪。とても健康そうには見えない白い肌。顔は中性的――よりは少し女性よりに見える。ただ、着ているものがよく見る形の学ランなので、男なのだろう。
どこかで見たことのある人物――と、考えてようやく自分の置かれている状況に気づくことができた。
目の前にいるのはほかの誰でもない――ぼくだった。毎日鏡で対面しているので、見間違える筈がない。
そっくりさん?
いや、そうであればいいのだろうが、辺りの雰囲気はそんな冗談では片付けてくれそうにない。どちらかといえば、ドッペルゲンガーと言われたほうが納得できる。
『ぼく』は、ぼくと同じ顔で、ぼくが浮かべたことのない笑顔を浮かべながら、口を開いた。
「『ぼく』は、今の世界に満足かい?」
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