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「――連れてきたよ」
不恰好に伸びた髪。不健康そうな白い肌。中世的な顔立ちをした少年が、前髪の隙間から瞳を覗かせながら、暗闇へと向かって呟く。
辺りにはなにもない。ただ一面の暗闇が広がっているだけで、少年を照らすように降りてきている光以外は、なにもなかった。
なのにもかかわらず、少年はまるでそこに誰かがいることをわかっているように、一点を見つめ続ける。
するとやがて、少年が見ていた方から、女性のものではあるのだがどこか凛々しい声が響いてきた。
「ご苦労。よくやってくれたね」
「いえいえ。ぼくはただの案内人で、向こうの意思がなければ連れては来られないから。まぁ、確実に来られる人間を『選んだ』のだろうけど」
少年の言葉への返答は、短く息を吐く音だけだった。
暗闇の先にいる人物は、一体どのような表情をしているのだろうか。
少年は、まるでそれがわかっているかのように笑顔を浮かべる。ただ次の瞬間、あざとさを演出するかのように首を傾げながら言葉を繋げた。
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