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 両家の人間は、後から後から訪れる人々への挨拶に追われている。  入れ替わり立ち代りの知らない顔を眺めながら、摂だけがぼんやり、壁際のソファーに腰掛けていた。話し相手もいないので、お喋りな摂にとってはつまらないだけの時間だ。ソファーから立ち上がってカーテンをくぐり、中庭に面したテラスに出ると、 「せっちゃん」  追いかけるように背後から声をかけられる。横に並んだ新郎は摂と同じように手すりに凭れ、悪戯っぽい視線をこちらに寄越した。サボタージュの共犯を見つけたような色だ。 「…………さくらちゃん、すごいよね」  ウェディングドレス姿の姉は、とても美しい。摂の言葉に新郎は思いきり目を細めて、こくりと頷いた。 「きれいだろ?」 「うん」 「あはは、いいなあ、きみらの姉弟は」  楽しそうに笑って、ちらり、カーテンで遮られた室内を振り返る。 「今日で俺も、せっちゃんのほんとの兄さんになれるな」 「うん。よろしく」 「あ、先を越されてしまった。こちらこそよろしく」  差し出された右手を握り返して、アメリカンスタイルのシェイク・ハンド。姉や摂と違い、彼の血は純粋な日本人のものだが、姉弟が父の母国で暮らした幼い数年間を足したより長い間、彼の人生の半分より少し長い間を海外で暮らしていた人だ。一番長かったのはシンガポールで、それでも三年だったそうだけれど。 「……英介(えいすけ)さん」 「ん?」  四分の一のアメリカ人の血が、どうか彼を暗ませることができますように。ごく軽い調子を装って伸び上がり、英介の頬に唇の表皮を、ほんの0.1ミリ触れさせてすぐ離す。 「おめでと、お幸せに」 「ありがとう」  破顔した彼からの返事は、ほんとうに突然だった――ぐい、と屈み込んだ彼の唇が、確かに一瞬、摂の唇に触れて、離れた。 「……これで、正解?」 「…………ありがと」  反射的に口を覆った両手の間から漏れた、細く裏返った自分の声。おまけに震えていて、他人のもののように聞こえた。
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