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「そうだったかな、そうか……。俺のNoahは、そのままカタカナで書くんだけど。苗字は、ほりごめ。あいにく名刺は持っていないもので。堀に、込めるで、堀込」
礼拝堂から距離を置いて、二階建ての木造建築と、倉庫のようなプレハブの建物が並立している。ノアは摂の名刺を指に挟んだまま、二階建ての建物を指差した。彼らのファミリーネームが掲げらた玄関を指すジェスチャーだ。堀込ノア、ちょっとミスマッチだけれど、文字を得てやっと、彼が実体を持った気がする。
「名刺のいらない職業?」
「まあね。学校の先生だから」
「わお、小学校? 中学校?」
「高校。英語の先生」
「ぽい」
「そう?」
「で、舐められてるでしょ」
「うーん、ちょっと」
言葉を濁しながらも即答するので、やはり、笑ってしまった。
ギイイイ。
間延びした鈍い音、礼拝堂の左右の扉がゆっくりと開かれる音に、結婚式のフィナーレを知る。
「ライス・シャワーの後始末は俺だから、思いっきり撒いて」
ノアの言葉に、礼拝堂を降り返っていた首を元に戻す。
「ほんとに?」
そうだよ、なのか、冗談だよ、なのか。ひょい、と片眉を上げるだけの仕草では不十分だと思ったが、背後のざわつきが摂を慌てさせた。
「あーねえ、日曜ミサとかやってるの?」
「礼拝なら」
カトリック風の表現を、ノアがやんわり訂正する。
「あ、そっか……あんたも出るの?」
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