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「出入り自由、だから」  その代わり、そっとね。立てた人差し指を唇に当てて、それからその人差し指で礼拝堂の中を指すのに従って、摂は黒っぽく光る床板を踏んだ。  最後列の空席に、並んで座る。  聖壇に立つ堀込牧師は素知らぬふりで説教をしながら、着席までの間、摂にしかそうと判らない目配せを寄越していた。大ぶりのジェスチャーを交えながら話しているのは、おそらく筋立ったものではなく、世間話のよう。礼拝に集まっている人々もごくリラックスした様子で、厳粛な雰囲気は薄く、さわさわと人の声に満たされた堂内が心地よい。 「なぜ礼拝に?」  摂が座りやすい姿勢を確保するのを待って、ノアが小声で尋ねる。とても基本的な質問事項だ。摂は同じように小声で返した。 「また来るって言ったら、どうぞって言われたから」 「そう」  前列に座る、ほんの小さな男の子から送られる熱心な視線に気付き、手を振ってやる。遅れてやってきた見知らぬ男、それも茶色い髪と目とあっては、彼の気を引くのにじゅうぶんなのだろう。男の子は恥ずかしそうに母親に隠れながら、五本の指をうまく動かせない不器用な手つきで、手を振り返してくれた。バイバイ、唇だけで告げて、コミュニケーション終了。     
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