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「賑わってるね、いつもこんな?」
「日曜礼拝は、特別」
可笑しそうにこちらを見ていたノアは、簡単にそうとだけ説明すると、聖壇の父親に身体ごと向き直った。
「……あ、車。向こうに勝手に停めちゃったんだけど」
「どこでもどうぞ」
「――では、聖書を開いてみましょう」
説教は、イントロダクションからテーマへ移るようで、あちこちで本を開く音が重なり合う。
「先週の続き、ガリラヤ湖のお話をします。たくさんの奇跡を見てきた湖です……東西南北に二十キロほど広がっている……猪苗代湖よりひとまわりくらい大きいと言えば、想像できる方もいらっしゃるかな」
小学生くらいの年齢の子供が多いからだろう、堀込牧師の言葉はまず子供に向けて、それから徐々に大人に向けて変化する。
「ね」
「ん?」
「……これ、長い話?」
開く聖書もないので、摂は自由な左右の手で頬杖を付きながらノアを見た。こらえ性のない摂に対して彼は遠慮なく破顔すると、とん、椅子の背凭れか摂の背中か、ちょうどその境目くらいに触れて、摂を促す。
「出よう」
「いいの?」
出入り自由だと、言わなかった? 黒ぶち眼鏡の中で細められた目の意味を勝手に想像し、摂はノアに続いて礼拝堂を出た。
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