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「車って、あの手前のでしょう?」
石段を降りながら、ノアがブロック塀の方向に首を伸ばす。塀の向こう側に沿って大きな木が生えているので、一面が木陰になっている。そこに停められた車のうち一台は、摂のものだ。
「ん、そう」
「すごいな」
揶揄うように感歎してみせたノアは、ゆっくり口元を引き締めると、少しシリアスな顔になった。
「なぜ……教会に?」
「そりゃ俺は、信仰を持たないけど……」
さっきの質問とのわずかなニュアンスの違いに、叱られているような気分になる。心外な思いで反駁しようとする摂を、ノアは素早く執り成した。
「違うごめん、そんな意味じゃない。ここは気に入ったのかなと、思って」
「……ああうん、海見えるし、空が近い。それにすっごい青くて……エアウェイ・ブルーって呼ぶのかなあ。これって不純? やっぱり戻ってアーメンくらいは合唱しなきゃだめ?」
両手を組む仕草は、媚を売るためにすることだってある。目の前のクリスチャンは苦笑がちに首を振って、それを許した。
「……この真上。飛行機の通り道なんだ。ちょうど、こう」
すい、長い腕が大きなモーションで、空に一本の直線を描く。
「大きな飛行機雲ができる」
「へえ」
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