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「うるさいけどね」
ノアの描いた見えない線を、目で追う。飛行機の音も、飛行機雲も、彼にとっては日常的な存在なんだろう。
「ずっとこの町に?」
「大学は東京だったけど、それ以外はずっと」
「迷わなかった?」
「…………ちょっとは、ね。でも愛してる」
彼はずっと以前からこんなふうに、生まれ育った町に対してストレートに愛情を感じていたんだろうか。穏やかでつつましい、ありふれた町だ。この土地に戻ることが、彼にとってどれほどの決断だったのかは判らない。けれど今の彼は、ごく自然に自分のスタンスを受け入れているのだと摂には思えた。
「今いくつなの?」
「歳? 二十六」
「今年で?」
「ええ」
「そっか。いっこ違いなんだ」
独特のおっとりした雰囲気が、ノアを年下にも年上にも感じさせていた。実際に一歳違いと聞いても、感覚的なものは変わらない。
「二十五?」
摂はといえば、自分ではベイビー・フェイスだと思わないのだけれど、年より下に見られることが多い。
「残念でした、二十七。先生は楽しい?」
「……ああ、うん、楽しいのかな。幸いなことに」
「とっても幸福だと思う。そうだ、眼鏡、その眼鏡は普段から?」
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