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「そう、そう。由香ちゃんの旦那さまの、お友達の席」
「ええ。素敵な結婚式でした、とても」
「ありがとう。私にとっても夫にとっても、その言葉が一番」
にっこり笑った彼女は、抱いたかごに被せた布の下から、まだ温かいロールパンを二つ摂に差し出した。
「あなたにも神の恵みを。また来てね、また来たくなるくらい美味しいから」
ロングスカートの後ろ姿を見送りながら、ノアを見上げる。
「おまけ……?」
「そう。婦人会が朝から集まって作る、焼きたてのパン。ちなみに俺は生まれてからずっと、日曜の昼はこれなんだけど」
「あはは」
「…………摂は」
「うん?」
「摂は猫をかぶるね」
非難するトーンではなかったので、黙って許すことにした。
焼きたてのパンはとても柔らかく、少しでも力を入れるとへこんだまま戻らなくなりそうだ。バターの芳香を鼻で確かめてから、一口齧る。手作りというのはなんで、こんなに美味しいのだろう。
「ああそうだ、ひとついい?」
「ん?」
母親からパンを与えられなかった息子の言葉だと解釈し、齧りかけのパンを譲渡しようとする摂の動作を、ノアが押し留める。
「違うって。質問」
「あ、うん、なに?」
「また来る?」
疑問系ではあっても、またおいで、と同義の文句だった。
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