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 明日の結婚式で新郎となる人物は、営業職の同僚である。  二十七歳の同い年。二年前に摂が東京本社を離れてこの地方都市に赴任したのと、彼が別の支社からこの支社に移って来たのが、ちょうど同じ時期だった。すぐに親しくなったのも自然だろう。会社の上司や同僚も披露宴には出席するのだが、摂だけは挙式からのフルコースだ。ウェディング・チャペルで実際に教会に入れるのは、何しろ定員が少ないので、親族やごく親しい友人などがほとんどだと思う。気性の良い同僚の心遣いは嬉しいが、浮かない気分になるのを許して欲しい。  ――結婚式は苦手だ。  ひとつため息を吐いて、プルタブに爪を立てる。  缶が熱いからといっていつまでも待っていると、中身がぬるくなってしまうのだけれど、タイミングがいまひとつ判らない。カシ、少し力を込めて開けると香料がふわりとかおり、一口含んだそれは、じゅうぶんに熱く、べたつく甘さだった。  地球を覆う大きな樹形図の、自分は末端にいる。摂には祖父母の代までさかのぼるだけの知識しかないが、それよりずっと以前から、絶妙な配合で血統は変化を続け繋がっている。そこからころりと自分だけが外れて落ちてしまったのだと、生まれついたセクシャリティに楽観的なはずの自分だって、その対価を思ってナーバスになることもあるってことだ。  手っ取り早くハイになるにはアルコールがいいが、同じように簡単に冷めてしまうのが物足りない。  駅の奥からは時々、電車の音とアナウンスが聞こえる。  客待ちでずらりと並んで停まるタクシーの窓に映っている、自分の姿。ぼんやりそうと判るだけの不明瞭な姿を見つめていたって面白くもない、摂は甘ったるい茶色の液体を喉へ流し込んだ。
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