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摂はそっと右手を上げて、ノアの首の後ろ、尖った骨より少し上の部分にあるチェーンの留め具に人差し指を当てた。摂の手を横目で追っていたノアが、それでも意外だったようで、不思議そうに目瞬く。
「……ん、なに?」
「これ、ロザリオ?」
彼の皮膚に留め具を小さく一度押しつけて、手を離す。
丸首のカットソーを好んで着ている彼の首元にはいつも、光沢のない、白っぽいチェーンが掛かっているのがちらりと見えている。アクセサリーには興味のなさそうな男なので、その部分だけが他に比べてアンバランスに思えて仕方ない。
ノアは笑いながら、チェーンに指を掛けて、服の中からそれを引っ張り出した。チャームになっていたのは想像どおり、柔らかな乳白色の十字架だ。大きな手のひらが、小さなそれを握り込む。
「…………摂は、カトリックの教会に通っていたことが?」
数秒思案するような間の後の質問は、摂にとって突然で脈絡のないものだった。
「……あーうん、子供の頃ちょっとだけアメリカに住んでて。たぶん、カトリックだった、のかなあ」
その上はっきりとした答えはなく、曖昧に頷くだけになってしまう。西海岸の、ロサンゼルスに住んでいた頃。平日は幼稚園、日曜は教会に通ってた憶えはあるが、住んでいた家の間取りさえ曖昧なほど遠い記憶なのだから。
「洗礼は受けた?」
「洗礼名があるって話は聞かないけど……どうなんだろう。問題?」
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