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キリスト教の中に、カトリックとプロテスタントがあるのは知っている。プロテスタントがその名の通り、カトリックに反抗して生まれたものだと言うことも。不安と、少しの気まずさを感じてシリアスになる摂を、ノアは笑ってリラックスさせた。
「いや大して。結婚するならともかく」
「誰が誰と?」
間の抜けた訊き方をしてしまったのは、彼の説明が足らなかったせいだ。摂に倣うようにごく僅かな角度で首を傾げたノアが、すぐに気付いて言葉を足す。
「仮定ですが。摂が結婚式をここで挙げるなら、って意味」
「あぁ」
摂の失笑を、彼は理解のそれだと思っただろう。
「うちはね、ロザリオってあんまり言わないんだ」
「そうなの?」
「うん。クロスとか、まあ、十字架って単純に……」
十字架を握り込む長い指に指で触れて、開くようにとお願いする。抗わずに開いた手の中から、摂は丁寧にそれを奪った。
「イエス様、ついてないんだね」
「ええ。シンプルなものでしょう?」
「ここもシンプルだもんね、マリア様もいないし」
見まわす堂内、聖壇には十字架があるだけでマリア像はない。
「うん、たぶん、摂が通ってたのはカトリックの教会だと思うな」
「そっか。俺、なんにも知らないね……」
「そんなふうに思う必要、ない」
無知な摂を、ノアは決して変えようとしない。フェアーな彼の態度は素晴らしいと思うが、不満に感じることも多いのだと気付いてくれているだろうか。
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