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 コト、空になった缶を足元に置いて、立ち上がる。  無意識の動作だったのだけれど、そう気付いても、空き缶を拾い上げる気にはなれない。そのまま素知らぬふりを決め込んで、その場から離れようとした時だ。  コンコースに向かって歩いていたのだろう男がゆるやかにルートを変えて、こちらへ近づいてくると、摂の足元に屈みこんで置き土産を手に取る。思わず背筋を緊張させる摂にお構いなしに、彼は缶を揺らして残量ゼロを確認すると、それを持ったままポーズを決めた。  左手を缶の尻に、右手を側面に添え、顔の前でぴたりと止めるのは。  スリーポーント・シューターの放った空き缶は、見事な軌跡で自販機と自販機の間のゴミ箱に吸い込まれた。  男が首を巡らして、ゆっくりこちらを見る。  背の高い男だ。癖の強い巻き毛も、眉も、瞳も深い深い黒。西洋にあって東洋的と言えるイメージの、エキゾチックさを一目で感じる。ファッション誌の、海外ブランドの広告ページなんかに東洋系のモデルが使われているとはっとする。ちょっとそんな風情のある男。スーツ姿ではなく、パンツにジャケットなんて恰好だから、余計にそんな印象なのかもしれない。     
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