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 末尾に添えられた絵文字は、さて、何を伝えようとしたものなのか。メール下手なところを微笑ましく思えることもあれば、幻滅しそうだと思ってしまうこともある。 「誰?」 「露木(つゆき)さん、M電の……」  返信メールを打つのは面倒なので、アドレス帳のマ行を探す。M電工露木、から発信ボタンを押し、しばらくコール音に耳を傾ける。向かいの乾が煙草を取り出すのを睨みつけると、彼も気づいたようで、苦笑がちに肩をそびやかしてケースをしまう。確かに摂自身は嫌煙家であるが、それ以前に、当たり前だがオフィスは禁煙だ。疲れているのは後輩も同じなのだろう。 『二見さん?』  電話の向こうの、クリアな音声。落ちついた男の声だ。 「……お久しぶりです、今大丈夫ですか?」  彼と話す時は、なるべく柔らかく発声するように気をつける。 『平気。久しぶりだね、まだ仕事中?』 「はい。あー、あの、日曜なんですけど」 『うん』 「ごめんなさい、ちょっと予定が……せっかく誘ってくださったのに」 『あ、そうなの? 残念。二見さん、早めに誘わないと予定入っちゃうんだよね』  ふふふ、穏やかな笑い。摂の言い訳が嘘でも本当でも、ゴルフの誘いに応じないくらいで気を悪くするような人ではない。 『ご飯どうですか、じゃあ、近いうちに』  それから、一度目に応じてもらえなくても、次を約束させる人でもある。 「……ええぜひ」     
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