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『よかった、また電話します。声だけでも聴けてよかった』
「僕もです」
『仕事、無理しちゃだめだよ。線細いんだから、倒れたら大変』
「ええ、はい……じゃあまた。失礼します」
親しみを込めた露木の言葉に微笑の息を返して、電話を切る。ここにノアがいたら、猫を被るね、とまた面白そうに言ってくるだろうか。
得意先の役職者であり、仕事を越えた付き合いもあるひと。距離は遠いより近く、より近くなる可能性を含んでいて、それは決して心地の悪いものではないのだけれど――。
通話をオフにしたのと同時に出たため息を、どうなふうに解釈したのか。
「上手くいってないの?」
いつからだろう、乾がこちらを見ていた。
「んー、そんなことないよ……てゆうか、上手くいくって別に」
なんにも、と口の中で呟く。
「M電の課長。若いし、顔もいいじゃん」
乾は構わずに自分勝手な見解を述べて、反論を待つ構えだ。摂はむっと、唇を尖らせる。
「何が言いたいの、ユーヒくん」
「契約取ったあとってやっぱ持て余すのかなあ、と」
「ほんとむかつく、そうゆうとこ。継続的なアフターケアーも必要なんですう」
「そうですね。じゃあなんで?」
考えることもせずに断わったのだと、彼には知られている。
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