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 礼拝が終わって、居残っていた人もぽつりぽつりと出て行った後の、誰もいなくなった空間が好きだ。礼拝の最中は一番後ろの劣等生席が指定席の摂だが、自由に選べるならば、前から三列目の、左側の席の右端、通路側に座ることに決めている。  くしゅ、くしゅんっ……。  高い天井に、くしゃみの音が二回続けて反響する。三発目が予感に終わり、むず痒い鼻を軽くこすっていると、背中から決まり文句がかけられた。 「Bless you」  くしゃみは神様からの警告の合図とされているので、くしゅん、とやった人に対してはたとえ知らない相手でも、こう言ってあげるのが良い。言われたほうはもちろん、彼ないし彼女の厚意には礼儀正しく応えなければいけない。今の摂ならば、通路を挟んで隣の席に腰を下ろすノアに。 「Thank you……ほんとに効きそう、こんなとこだと」  神様の恩寵を受けるには、うってつけの場所だろう。聖壇を向いていた身体を通路側に動かして、彼と向かい合う。 「寒くなってきたぁ……」     
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