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 十一月に入ってずいぶん、寒い日が多くなってきた。朝、出勤する時に車のクリープが強いのに気付いたり、収納からヒーターを出したり、段々と冬に近づいていく感じ。教会では今週から、ストーブを出すことにしたらしい。礼拝の間は点けられていたのだが、今はもう消えていて、灯油の残り香をかすかに嗅ぎ取れるだけだった。 「そうだね。風邪ひいた? 大丈夫?」 「だいじょぶ。でも冬になったらふつうに雪降るんだもん、俺こっち来てびっくりした。いつスタッドレスにしようか考えちゃうよ」  実際に住むまでイメージにはなかったのだが、冬の雨が簡単に雪に変わってしまう土地だ。去年はそれを知らずに、準備不足のまま冬を迎えてしまった。少々のブランクを除いて二十六年間ここに住み続ける男が、ゆったりと笑う。 「十一月はさすがにまだ必要ないよ。俺なんか年によってはチェーンで済ませてしまうけど」 「いける?」 「まあ、年によって」  断言はできないなあとまるで参考にならないことを言って、彼は摂をがっかりさせた。うへえ、失望を隠さない摂の心情を察するのはきっと簡単で、ノアが少し気の毒そうに、指先を顎にかけて微笑する。 「冬は苦手?」 「俺はねえ、寒いのも暑いのも嫌い。ノアは冬が好きなんだ」 「すごく寒い日に、厚着して出かけるのが好き」  目の前のノアの服装はTシャツにカーディガンだが、彼は着膨れた自分を想像しているのか、楽しそうに目を細める。 「……変わってる」 「そう? とても神聖な季節じゃない?」     
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