5

4/13

125人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 たくさんの現代アーティストも歌っている、有名な曲だ。出だしだけをハミングして、ちらりとノアを上目で見る。素晴らしい、その通り、と軽く頷いて、次の問題。 「What a friend we have in Jesus」 「えー、知らない」 「絶対知ってるって、有名。邦題が付いてるんだけど、思い出せない……」 「じゃあ歌って」 「あー……」  ノアは困ったよに語頭を濁し、数秒、思案気味に目を伏せる。それから柔らかい声で、 「What a friend we have in Jesus……」  と口ずさんだ。出だしですぐ、摂にはその邦題が思い出せるメロディーだ。 「All our sins and griefs to bear……What……」  最初の何小節かは歌詞を、途中からは忘れてしまったのだろう、曖昧な鼻歌になる。実にラフな歌い方だけれど、癖になっているようなごく控えめのビブラートがとても音楽的で、美しい歌声を想像させずにはいられない。歌えと命じたくせにいつまでもストップをかけない摂に、シンガーは自分からメロディをフェードアウトさせた。 「どう……?」  絶対知ってる、なんて言い切ったくせに、眉を下げて訊ねる調子が自信なさげなのが可笑しい。うっとりした気分に水を注したと怒るのは、彼にとってあまりに理不尽だろう。 「…………知ってるよ、星の世界」     
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加