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『……デジカメだからそう見えるだけよ、失礼だなあ!』
「あ、そう?」
『そんなこと言う子には、英介に代わってあげないから』
切り札、とでも言うように出された人名に、ただ驚いて問い返す。
「英介さんいるの? 珍しい」
『代わってあげないもん』
「ごめんなさい、さくらちゃん」
うふふ、忍び笑いとともに、受話器がバトンタッチされるのが判る。自分たち二人には、姉弟喧嘩ができないのだ。かすかなノイズに耳を澄ませているとやがてそれは、
『せっちゃん? 元気そう』
義兄の声に変わった。
「うん。英介さんは? 仕事どう?」
『相変わらず、あちこち飛んでます。ちょっと見ないうちにひかるがでっかくなっててねえ……』
「はは、俺とおんなじ感想じゃだめでしょ」
『おじさん誰? って言われやしないかと、帰る度に心配』
「転職するしかないって?」
『ははは。うーん……まあ、いずれは家族で行くことにはなりそう』
「アメリカ?」
『さくらとひかるを連れてくならね』
「東南アジアなら、でっかい一軒家にメイドと運転手つくじゃん」
シェフもつくよ、と笑った英介が、小さく咳払いをする。
『さくらの言ったこと、気にしちゃだめだよ』
「何?」
『結婚』
「……ん、そうだね」
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