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チャリ、チャリ、チャリ……キーホルダーを回しながら車に戻る途中、堀込牧師と出会う。
「先生、こんばんは」
夕刻の挨拶は、摂には明確な基準がある。明るいうちならこんにちは、暗ければこんばんは、なのだ。牧師は大らかな笑顔を摂に向け、横目で礼拝堂を示す。
「こんばんは。息子はいませんでした?」
「ええ……いえ、今日は」
何がイエスで何がノーなのか、自分で言っていてよく判らない。ゆるりと首を振る息子の友人を、堀込牧師はことさら追及したりはしなかった。
「そう。明日の礼拝には?」
この、軽い相槌と、後半部分を相手に委ねるような質問のしかたが、父子でほんとうによく似ている。
「……明日は、無理かもしれません」
摂の口から自然に、そう零れる。
驚き、戸惑い、言い訳を探して、結局ひどく曖昧な微笑みで取り繕う摂に、牧師は慰めるような目瞬きを寄越した。
「そうですか、妻ががっかりするだろうなあ。いつでもいらっしゃい。教会はね、三六五日二十四時間…………あー、できればまあ、朝六時から夜十時くらいまでがありがたいんですが……いつでもあなたに開いていますよ」
後半部分で摂をわずかに笑わせることに成功した彼は、胸元のクロスを握り込んで言う。
「あなたのために祈りましょう」
「……ありがとうございます」
彼に感謝の言葉を述べながら、心許なくて、キーホルダーを強く握った。
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