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 言いつけどおり、携帯電話が鳴ってから部屋を出る。  エントランスのすぐ脇に停められた車の、助手席のドアを開けると、露木は上から下へごく自然に摂を観察して微笑んだ。 「実物を見るのは久し振りだな」 「ええ、お互いに……」  微笑み返し、助手席に乗り込む。 「ありがとうございます、わざわざ迎えに来てくださって」 「どういたしまして」  摂がシートベルトを閉めるのを待って、車は発進した。  連れて行かれたのは、市街からかなり走ったところにある、郊外の住宅地に構えられた店だった。白壁と、オレンジのライトが柔らかい印象のフレンチ・レストラン。 「来たとこある?」 「いいえ、びっくりしました……こんなところに」  隠れ家的、というか、知らなければ辿りつけない立地だ。露木は半ば呆れて店の外観を眺める摂に軽く笑いかけ、促した。 「入りましょうか」  席数の少ないこの店は当然のように完全予約制で、近いうちにご飯でも、と言われてから実際会うまでに時間が必要だったことに納得させられる。コネクションがなければもっと時間がかかったかもしれないとさらりと言うので、この店の予約状況と彼の人脈を思い遣ってしまった。     
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