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「伊豆だったら冬でもあったかいでしょう。伊東、行きませんか?」 「え?」  露木が仔牛肉にナイフを入れながら言うので、ワイングラスから唇を離し、彼の手元を見るのを止めて顎のあたりに目線を移す。 「ゴルフ、川奈あたりに。年内はお互いにもう身動き取れないだろうから……来年の、決算期より前に」 「はは、決算より前に。そうですね」  露木はこういう席でも、仕事の話をしたり聞いたりするのをあまり嫌がらない。お互いにとってオン・ビジネスの側面もあり、情報交換の席としても有効であるのだ。  食事は、そうと気付かれないように摂が露木のペースに合わせることで進められた。飲み干したコーヒーをソーサーの上に置くまで、彼よりわずかに遅れたタイミングをキープする。 「美味しかったです」 「よかった。二見さん、舌が肥えてるから」 「……美味しかったです、とても」  露木の褒め言葉を肯定も否定もせず、重ねて料理を賞賛することで許してもらう。にっこり笑って立ち上がる彼に従って、席を立った。     
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