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クロークからコートを受け取った露木が、オーナー夫人と短い遣り取りをし、厨房を覗き込んでオーナー兼シェフの人物と挨拶をする。カードを差し出して、迷いなく用紙にサインすると、露木は大人しく待っていた摂を振り返って笑った。
「二見さんのそういうところ、いいなあ」
「はい?」
「ふりで財布を出そうとしないところ」
「露木さん」
「はは、僕が出させないんだよね、揶揄ってごめん」
同伴者に困った顔をさせて満足したようで、彼は手振りで、摂をドアに通した。
夜はとても寒く、吐く息は白い。晴天の夜空には無数に星が瞬き、そこに向かって息を吹きかけるだなんて幼稚なことをやりたくなってしまう。
「さて」
背後からキー・ロックを解除しながら、露木が摂の背中に軽く手を添える。
「食後にはカクテルをいかがでしょうか」
「……素敵ですね」
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